夢も希望もあるのだが

タイトル通り、夢も希望もあるけど無味乾燥な日々を淡々と生きようとするブログです。

「百年の孤独」はあまり好きではなかったのだが(「精霊の家」感想)

 イサベル・アジェンデ著「精霊の家」を読んだ。内容としては霊と交信する登場人物や、ものすごい勢いで生まれる子どもなど非現実的な要素と、実質的に崩壊している夫婦仲や男性の暴力性、政治における不合理など現実の問題が織り合わせられており、これこそ魔術的リアリズムという内容である。一度文体や展開の進み方に慣れてしまえば引き込まれやすい作品になっているし、個人的には「百年の孤独」より読みやすいと思う(そして多分、こちらの方が短いとも思う)。

 

 世間的には「百年の孤独」の単行本化でそちらの方が注目されているのだと思うが、生来の天邪鬼が故に同じラテンアメリカ魔術的リアリズム文学の中でもこちらに手を伸ばした。正直、「百年の孤独」は魔術的な部分がぶっ飛んでいたために、読むのも苦痛だったし、長い時間をかけて読んでいた分、毎回登場人物たちの名前も忘れてしまい、展開もわからない、誰が何をしているのかもわからないという困惑の中で読んだためにそれほど楽しく読んだ記憶もなかったが、「精霊の家」は比較的登場人物が少ないように思うし、起こっていることも現実から大きく外れていなさそうな感じだったので、比較的読みやすかった。

 

 この読みやすさについては「精霊の家」が20世紀はじめ? から70年代初めのチリでのクーデターまでを扱っているため、それよりも時代が古い「百年の孤独」に比べてより現代的な生活を扱っており、色々な出来事について現代的な価値観で理解がしやすいということも影響しているのではないかと思う。

 

 しかし、著者もまだ存命であるこの作品設定が現代に近いことで、現在進行形の問題にも通ずる部分が生じてしまっているには注意が必要であろう。著者は、実際にクーデターで殺されてしまったサルバドール・アジェンデの姪という立場(日本語版Wikipediaを見る限りでは親族の中では例外的に親しかったらしい)であり、反クーデター的な立場は当然のこと、貧しい人々に寄り添う記述が多い。

 

 他方、現在でもチリではアジェンデ政権、クーデター後のピノチェト政権をどう評価するかは別れているようで、左右の分断も激しいらしい。外国人がどちらが正しいと決めつけるのも違うとは思うが、本書の記述を快く思わない人は現代のチリ人の間にも少なくないのではないかと思う。実際にチリ人に会うことがあっても、「精霊の家」から得た知識で近代チリ史に言及するのは危険かもしれない。

 

jp.reuters.com

 

 一方で、イサベル・アジェンデ氏自身は現在も人気作家としての名声高く、カリフォルニアで長く暮らしているらしい。娘さんを90年代に亡くしてしまったようだが、今も精力的に活動しているようだ。TEDトークに出ているのは、好みが分かれるかもしれないが…… 

 

www.ted.com

 

 というところで、「精霊の家」自体の魅力にはあまり触れずに終わりが近くなってきてしまったが、結局、作品世界が現実・現代に近い分、「百年の孤独」はぶっ飛びすぎてて……という人にもおすすめですよという話だ。いつか舞台であるチリにも遠征したいものだ。